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仙台高等裁判所 昭和23年(ネ)165号 判決

主文

原判決を左の通り変更する。

被控訴人の訴願に対し昭和二十二年七月十六日した裁決は之を取消す。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す、被控訴人が控訴人の訴願に対し昭和二十二年七月十六日した裁決を取消し、昭和二十二年五月二十四日稗貫郡宮野目村農地委員会が別紙目録記載の農地につきした買収決定は之を取消すとの裁決をなせ、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は本件控訴を棄却するとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、控訴代理人において、

一、別紙目録記載の農地は控訴人の所有である。控訴人は昭和二十年十月末訴外駿河善松と合意の上右農地の賃貸借契約を解約しその返還を受け爾来控訴人において之を耕作してきた。

二、自作農創設特別措置法第六条の二、第六条の五は昭和二十二年十二月二十六日改正法律第二百四十一号によつて新に規定されたものであるが、右改正法附則第二条によつて、改正前の同法附則第二項により農地買収計画に関してされた手続は之を右改正法第六条の二、第六条の五の規定によりされた手続とみなされるから、右改正法の規定は本件の場合適用されるものである。

と述べ、被控訴代理人において、

一、本件農地が控訴人の所有であつたことは争わないが現在は買収により国の所有である。本件農地の小作人駿河善松において控訴人主張のように右農地を控訴人に返還したことはなく又その賃貸借契約の解約に合意したこともない。

二、昭和二十二年十二月二十六日自作農創設特別措置法の改正によつて規定された同法第六条の二、第六条の五は改正前にされた本件買収決定には適用されない。仮に適用ありとしても本件につき控訴人主張のような小作人において信義に反した事実又は所有者の生活状態が著しく悪くなるような事情はない。

と述べた外、原判決事実摘示と同一であるから茲に之を引用する。(立証省略)

理由

岩手県稗貫郡宮野目村農地委員会が昭和二十二年五月二十四日別紙目録記載の農地につき、昭和二十年十一月二十三日現在の事実によつて遡及して農地買収計画をたてその旨公告し、控訴人が右買収計画に対して異議を述べたが却下されたので同年六月二十八日被控訴人岩手県農地委員会に訴願したところ、同年七月十六日訴願の理由がないものとして訴願相立たない旨の裁決を受けたことは、当事者間に争がない。

控訴人は、別紙目録記載の田畑は控訴人の所有であつて訴外駿河善松に賃貸し同人をして小作させていたが昭和二十年十月末合意解約の上右田畑の返還を受け昭和二十一年度から控訴人において耕作してきたものである旨主張するから、案ずるに、右田畑が控訴人の所有であつて訴外駿河善松がこれを賃借耕作していたことは当事者間に争がなく、成立に争のない甲第二号証の一、二、第五号証、当審における控訴人本人訊問の結果により成立を認める同第六号証、原審証人阿部喜志、原審及び当審証人駿河善松の証言の一部を綜合すると、右田畑は控訴人が昭和十年中駿河善松に賃貸し同人をして小作させていたが、その後昭和十六年頃から右田について再三善松から水利の便が悪くて困るとか手不足で困るとかいつて返還の話があつたけれども、当時控訴人は耕作するつもりはなかつたので引続き耕作方を頼んでいたところ、昭和二十年になつて控訴人は右田畑を控訴人方で耕作してもよいと思い善松に之を話した結果、善松においても何等異議なく昭和十二年十月末右田畑に対する賃貸借を合意解約して之を控訴人に返還し、その後は引続き控訴人方において昭和二十一年度、昭和二十二年度、昭和二十三年度と之を耕作してきたこと、尤も昭和二十年十二月に控訴人は善松の妻から右返還した田畑のうち畑だけ小作させて貰いたい旨の申出を受けたが控訴人方では他に耕作する畑がないので之を断つたことを、いずれも認定するに十分である。原審及び当審証人駿河善松の証言中右認定に反する部分は採用し難く、成立に争のない乙第三号証の記載、原審証人畠山政右エ門、当審証人駿河庄太郎の各証言によつても、前掲証拠と対照するときは、未だ前記認定を覆して前記田畑に対する賃貸借の合意解約がなく若しくは右田畑の返還が昭和二十年十一月二十三日後になされたことを認めるに十分でなく、他に前記認定を左右するに足る証拠はない。

以上によると、右田畑は昭和二十年十一月二十三日現在においては所有者である控訴人の小作地ではなくその自作地であると認められるから、之を対象とした前記宮野目村農地委員会の買収計画は違法といわなければならない。従つて右買収計画を認容し控訴人の前記訴願を理由がないものとして棄却した被控訴人の前記裁決は亦不当であつて取消を免れないものである。

なお控訴人は本訴において、右裁決の取消と共に、被控訴人に対し昭和二十二年五月二十四日宮野目村農地委員会が前記農地についてした買収決定は之を取消すとの裁決をなせとの判決を求めているが、行政庁の違法な行政処分についてはその全部又は一部の取消の裁判を求めることを命ずる裁判を求めることはできない。たとえ行政庁において行政処分が取消された結果ある特定の行政処分をしなければならないとしても、それは行政庁の有する行政権の作用としてするものであつて裁判によつて之を命ずることはできないものと解する。のみならず行政処分の取消又は変更の確定判決はその事件について関係の行政庁を拘束するからこの点からしても控訴人が被控訴人に対し右裁決をなすことを命ずる判決を求める部分は法律上之を求める利益がない。

よつて控訴人の本訴請求は爾余の争点について判断するまでもなく右認定の範囲において相当であるがその余の部分は理由なしとして棄却すべきものと認める。原判決中これと符合しない部分は不当として取消すべく本件控訴は一部理由があり原判決は変更を免れないから民事訴訟法第三百八十六条第九十六条第九十二条第八十九条を適用して主文の通り判決する。(昭和二四年一〇月一二日仙台高等裁判所民事部)

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